金銀財宝☆只野編隊 金銀財宝☆只野編隊

EPISODE

金銀財宝☆只野編隊誕生秘話……?

いきなりですが、コンビニ強盗に遭遇したことはありますか?

ある年の2月上旬、中野にある某コンビニエンスストアでのお話です。
夜中の2時15分頃だったでしょうか?
一通り仕事を終えてバックルームに入りました。
ビデオを監視しながら、お客さんが来店したらすぐ店に出るという体制を取っていました。

そのとき、黒い帽子を被り、黒系の服を着た70~80歳くらいの細身のおじいさんが立っていたんですよ。
「いらっしゃいませ」
と声を掛けながらカウンターのほうに行きました。
買い物をされるのかと思いカウンターに入ると、そのおじいさんは
「コンビニ強盗だけどさ、お金出してくれる?」
と言って、手に何か凶器のようなものを持ってドンって寄って来たんですよ。
お恥ずかしい話、私は役者、芸人もどきをしながら30年コンビニの夜勤をやっているんですが、強盗というものに関しては一番会いたくないもので、会わずに済むのが一番いいというような生き方してきたんです。
しかし、ついに、ついに強盗に遭遇してしまい「ああ、マジか……」と思いながら、心の中では「めんどくせえ」という気持ちがあったんです。
それでも対処しなければならないんで
「あの、すみません。あの今、ちょっとね、レジからお金を抜いてしまって、本当にお金が無いんですよ。申し訳な いんですけども、そんなことをしても何の得にもなりませんよ?」
という感じで、おじいさんをなだめたんですが
「いいから金を出せ。」
まあ、強盗と名乗っているんだから、そりゃそうですよね。
「申し訳ないです。お金は出せません。」
という会話を繰り返しながら、何とか時間を引き伸ばしていました。

「どうやって警察呼ぼうか」とか「お金渡しちゃおうか」とか、頭の中で思いを巡らせながら、コンビニ強盗らしきおじいさんを観察したんですよ。
そしたら、手に持ってる凶器が先のとがった鉛筆ぐらいの細さの笹だったんですよ。2mくらいあったのかな。先がとがっていて、後ろに葉っぱがついていたんですよ。
いやいや、確かに刺されたら怪我するけど、鉛筆の細さのとがった笹ならたいしたものではないぞ。あれ、これはどうなんだと……。

私ね、輪島功一さんというかつての世界チャンピオンが名誉会長を務めるジムに24年間通っているんですよ。現在も通っています。ちょっとだけボクシングをかじっている素人なんですが、格闘技に関しては少しは分かっているんです。体が自然と動くというような感じでしょうか。
この程度の凶器なら、強盗を取り押さえられるのではないかと思い、私の心もちょっと落ち着いたんです。
ここから何かおかしいんですが、スイッチが入っちゃったんですね。
「あの、何のために、どのぐらいお金が必要なんですか? 何でコンビニ強盗なんてやるんですか?」
とか、質問し出したんですよ。
普通の店員だったら、強盗に遭遇したなんて状況なら、恐怖のあまり「分かりました」と言って、レジからお金出して渡して、強盗から解放されたいと思うはずです。
しかし、私は質問攻めにしたもので、強盗も一瞬びっくりしてしまったんですね。
それでも金を出すよう要求し続けていたんですが、一歩も引かなかった私に、急に心を開き出したんです。
「実は、金じゃないんだよ。」
「いやいや、コンビニ強盗しに来たんでしょ? 何で金じゃないって急に言い出すんですか?」
「実はな、警察呼んでほしいんだよ。いいから警察呼べ。」
「どうしてですか?」
「いや、近所の人間と揉めごとがあって、警察を呼ぶしかないと思って警察呼んだけど対応してくれないんだよ。コンビニ強盗でもすれば警察が来るだろう。だから警察呼べ。」
「呼びません。」
相手は70~80歳くらいの、先のとがった笹を持った細身のおじいさんです。
余裕で勝てます! 完璧に勝てます! 強盗の理由も聞きました。
「じゃあ分かった。おまえが警察を呼ばないなら、このカップラーメンを持って店を出るから、万引きとして捕まえろ。そしたら警察呼べ。」
「いやいや、おじいさん。違う、違う。万引きっていうのは宣言してするようなもんじゃないんですよ。サッと商品を持って、スッと逃げる。これが万引きです。おじいさんがやっていることは万引きじゃないから、警察は呼ばないです。迷惑な行為としては認めますが、コンビニ強盗もやらないで帰りましょう。こんなことをして警察呼んでも逆効果じゃないですか?」
「うん、分かった……。じゃあ俺が電話する。」
おじいさんは自分の携帯電話持って店の外に出て、自分で警察を呼んじゃったんですよ。

この状況を多くのお客さんやパンの配送の方が見ていて
「何かあったんですか?」
「コンビニ強盗です。」
というやり取りをしている合間に警察が来たんですね。
来るのが早いなあと思っていたら
「大丈夫ですか?」
と店内に入ってきたんですよ。
「はい、大丈夫です。私、警察を呼んでいないんですけど……。」
「知っております。あのおじいさんが呼んだんですよね?」
「はい、そうです。それにしても駆けつけるのが早いですね。」
「実はですね、ここの近くのセブンイレブン、ローソン、もう1軒近くにあるファミリーマートで、この老人が同じようなことをしまして。どの店も店員さんが警察を呼んだんですよ。通報のあった店舗に行ってみたらいなくなっていて、この店だけは老人自ら電話をしたと。」
「はあ、そうだったんですか?」
「しかも、他店では迷惑なおじいさんというのを知っていて通報したそうですが、ここはそうじゃなかったんですか?」
「はい、初めて見ました。ついにコンビニ強盗が来たかと思ったんですが、事情を聞いたら全く話が違うんで、私からは通報しませんでした。」
「ああ、そうでしたか。それで、どうしますか?」
「どうしますかと言われても、別に何かしたわけじゃないし。迷惑な行為だったのは確かなので、迷惑なおじいさんということでよろしいですか? 向こうの店もそうですか?」
「向こうのお店もそのような対応でした。」
「じゃあ、それでお願いします。」
ということで、迷惑なおじいさんの話になってしまったんですよ。

この迷惑なおじいさんのことを、時間が経ってからゆっくり考えていたら……?
まともな店員だったら警察を呼ぶ。
でも、私はボクシングをやっていた。そして芸人だったことに気づいた。
ああ、俺が変態なんだって気づいたんですよ。
ああ、変態だ。芸人って変態だ。俺はやっと芸人になれたんだ!というのがきっかけで、金銀財宝☆只野編隊になったとさ。


ラジオでは時間の都合でお話できなかったんですが、この話には続きがございます。
私が夜勤で働いている店舗は、もう10年ぐらい経営している店長とオーナーがいらっしゃるんですが、オーナーの方針で夜勤はワンオペなんです。1人体制での勤務です。
夜勤がワンオペの場合、普通でしたら警備保障会社、例えばセコムとか入れているんですが、この店舗は入れてないんですよ。
まあ、所詮強盗なんか起こらないだろうという感じなんですね。
警備保障会社と契約すると、月2万円ぐらい掛かっちゃうのかな? そこをケチっているのか知りませんが……。
それで、強盗騒動が起こってしまったわけですよ。

朝になって、私と入れ替わるために店長とオーナーが来ました。
いつもだったらすぐレジに来て声を掛ける店長が、その日はレジに来ず、なぜか商品の品出しをはじめました。
オーナーはレジのほうに来たので
「強盗と名乗るおじいさんが来店してひと騒動ありましたが、結果的には迷惑なおじいさんでしたってことがあったんですよ。」
と伝えたんです。
まあ、1億人いたら1億人が多分こう言うでしょう。
「大丈夫だった? 大変だったね。怪我とかない?」
しかし、オーナーときたら
「警察呼んだの? えっ、呼んじゃったの?」
「私は呼ばなかったのですが、結果的には強盗犯本人が警察を呼びました。」

いろいろと考えてみたら……?
一番変態なのは、店長とオーナーなんですね。もう笑うしかなかったですね。
というお話でした。

金銀財宝☆只野編隊のごきげんなラジオ
2024.01.20 O.A.より

ラジオで語れなかった続き音声はこちらからお聴きいただけます。