EPISODE
深夜の奇妙な鳴き声
こちらのエピソードは語り音声をお聴きいただけます。
これは中野北口にある丸井本社ビルの真下にあったコンビニでのお話part2です。
今から15~16年前のことです。この店舗は本部直営店でございまして、深夜勤は2人体制でした。
それで、おもな仕事を終わらせた後に交代で休憩を取るわけなんですが、一緒に入っていた方が休憩中で、私がレジに立っていたときのお話でございます。
いつものように普通に接客しておりました。
お客さんが少なくなって静かになったときに、何か変な音が聞こえるんですよ。
「何だこれ? 何か聞こえるな、うーん。」
そう思っているうちに音は止まる。少し時間が経つとまた聞こえる。うーん?
耳を澄ますと
「ニャー、ニャー。ニャー、ニャー。」
ちっちゃい声で鳴き声が聞こえるんですよ。
「ああ? 猫? 何だこれは?何で? どこ? 」
この店舗は、出入り口が自動ドアなんです。猫が店に入ってきているのかと思って、店の中を隈なく探したんですが、いないんですね。
「おかしいなあ?」
そう思って、壁に耳を当ててみると
「あれ、聞こえるな。壁の中? どこからか入っちゃって壁の中にいるのか?」
外に出て、お店と隣のビルの間の細い隙間を見たんですよ。でも、いない。おかしいな……。でも、またニャーニャー、ニャーニャーと声が聞こえる……。
「何だ? どこだ? 」
そしたら、足元のほうで聞こえ始めたんですね。
「ええ? うそ? 」
レジの後ろに、いろいろなものをしまう冷蔵庫があるんですよ。その冷蔵庫の下を、お店にある懐中電灯で照らして、奥のほうを見てみたんですね。そしたら、ちっちゃな子猫が1mぐらい奥にぎゅーーって詰まっているんですよ。
「いやー、猫? 子猫?」
ああ、自動ドアが開いたときにスッと入ってしまって、逃げ場がないから、怖くて怖くて、そこにずっと入っていたんだと思いまして……。
「これはいかん。何とか助けてやらなければ!」
と思って、軍手をはめた手を入れたんですが、子猫は怖さのあまりにぎゅーーーーっと入っていて、出てこないんです。あまり引っ張りすぎると、本当に猫ちゃんがちぎれてしまうぐらい、ぎゅーーーーっと入っているんですよ。これはやばい。声もドンドンちっちゃくなっていて、このままだったら死んじゃうんじゃないの? どうしようと思って……。
ああ、これは警察じゃないな。でも、子猫だよ、子猫の救出に来てくれるかなと思いましたが、消防署のほうに、119に電話したんですよ。そしたら、すぐに
「はい、分かりました。はい、お店の場所は分かりました。じゃあ、すぐに消防隊員が向かいます。レスキューしますので、少々お待ちくださいませ。」
と返答がきました。
それから15分ぐらいかな? 結構大きな消防車に、オレンジ色の服を着た消防隊員が5~6人乗って来たんですよ、ええ? ちっちゃな子猫の救出に5~6人? と思っていていたら、すぐさま
「どこですか? はい、ここですか。分かりました。」
と言って確認していました。
「では、すみません。レスキューしますんで、ちょっと下がっていてください。隣のレジのほうをお使いください。じゃあ、始めます。」
と言ってレスキューをし始めたんです。しかし、やっぱり手こずっていましたよ。ぎゅっと入っていますから。死なせては困るんでね。でも、そこはやっぱりプロですね。10~15分で救出しましたよ。格好良かったーーーー。
私、当時のガラケーで録画していたんですよ。子猫を救う消防隊員の姿に本当に感動しました。
「こちらです。よろしいですか? この子猫です。生きております。ちょっと弱っておりますが……。良かったですね。ああ、良かった、良かった。」
そのときは夏だったから、7月か8月かな。お店は冷房をガンガンにかけたんですが、もう消防隊員の皆さんが汗だくで……。その上、深夜の救出劇を目の当たりにして、まさかコンビニのレジ裏でそんなことが起こるとは思いませんから、すごく感動しちゃって、ちょっと涙が出てきちゃって……。
「それでは、これでレスキュー完了しました。この子猫に関しては、我々が保護いたしますが、よろしいですか?」
「もちろんです。」
というやり取りをして、消防隊員の皆さんが帰ろうとしたんですよ。しかし、あまりにも感動しちゃったんで、自費で飲み物でも出そうと思いまして、ポカリスエットを5~6本買ってきて消防隊員に渡そうとしたら
「いや、これは職務ですので、頂けません。」
と頑なに断わられたんですが
「これは私の気持ちです。皆さん、お疲れさまです。」
と伝えて、ポカリスエットをお渡ししました。
いやあ、まさかコンビニの中で、目の前でレスキューが行われるとは……。
良かったな、あの子猫ちゃん。今、どうしているかな?
という、ちょっと感動したコンビニの中でのお話。おしまい。