金銀財宝☆只野編隊 金銀財宝☆只野編隊

EPISODE

わかば

こちらのエピソードは語り音声をお聴きいただけます。

お久しぶりでございます。金銀財宝☆只野編隊でございます。

桜も咲き乱れ、そして散ってしまいましたね。
まもなく5月でございます。5月といえば新緑の季節でございます。新緑、若葉がどんどん芽生えてきますね。この時期になりますとね、私は思い出すことがあるんですよ。

これは16年くらい前かな?
中野の沼袋にあったコンビニ、サンクスというお店なんですが、そこで起こった出来事。

皆さん、若葉といっても、たばこの『わかば』って知っていますか?
いろんなたばこの種類がございますが『わかば』という銘柄のたばこがあるんです。日本のたばこです。いろんな種類のたばこの中でも特にお安いんですね。今は1箱500円ぐらいですが、昔は380円とか450円とか……。まあ、安いんですよ。
その『わかば』を買いに来た70歳くらいの方のお話。

深夜の2時過ぎあたりに、ドンって入ってきて
「わかば」
と言ってくるんですね。
それで次の日も、ドン……。
「わかば」
「あっ。はい、どうぞ。わかば……。たばこのですね。はい、どうぞ。」
さらに次の日も、ドン……。
「わかば」

毎日のように、だいたい深夜に買いに来るんですね。
私ね、お客さまの顔ってあんまり見ないんですよ。
もちろん、話しかけられたら目を見て話しますが、基本的にお客さまの顔はじろじろ見ないんですね。でも毎日いらっしゃると、ちょっとは見てしまうんですね。
それで、その日もドンって入ってきて
「わかば」
と言ったんで、そのお客さまの顔をちらっと見たら「はーっ、えっ?」って感じで、私はびっくりしてしまったんですね。

皆さんは小学校のころ、図工の時間に水彩画っていうのを描いていましたか?
水彩画で使う筆があると思います。平筆、そして丸い形の丸筆などがありますが、その丸筆が両方の鼻の穴からポンポンポンって出ているんですよ。丸筆みたいなお鼻の毛ですね。いや、もうぎゅうぎゅうに出ているんですよ。一瞬、鼻呼吸できているのかなって思っちゃって、ちょっとびっくりしたんです。
それで
「わかば」
と一言……。
「わかば……。はい、どうぞ。」

次の日も「わかば」
その日も、もう鼻がぎゅうぎゅうですよ。

ある日、またドンと入ってきて
「わかば」
と言われたときに、その方の顔を見たら、処理されていたんですよ。
それもね、処理の仕方が何というか……? 鼻から3mmぐらい出ているところを、ハサミかなんかでチョキチョキと切ってあってですね。切り株の丸太のような感じでぎゅうぎゅうなんですが、処理されていたんです。

そして次の日、またドンと入ってきて
「あー。」
あれ? 「わかば」ってくるのかと思いきや
「あの、ええ、あの、あれだよ。あの、あれ……。」
「あの、わ……。」
「あっ、言うな! あの、あれだよ……。」
「あの、わ……。」
「言うな!」
私はすぐに渡してあげたかったんですけど、その人は
「ううん、もういいや……。」
って言って出ていってしまったんですね。
私はポツンと取り残されて……。
いや『わかば』なのは分かっていたんですが、あれ……? ですよ。
ええ? あれは何だったんでしょうね? 夢だったのかな?
という、この時期になると思い出す『わかば』というお話。

おしまい。