金銀財宝☆只野編隊 金銀財宝☆只野編隊

EPISODE

寒い早朝の歓喜

【はじめに】
このお話はCASE1『夜勤のコンビニでのホロっとした話』のラジオ放送バージョンとなります。感謝状の写真などはCASE1をご参照ください。

CASE12で、オーナーがいきなり報道番組のインタビューに出ちゃった話をしましたが、せっかくなんで、そのお店で起こったお話をしましょうね。

このコンビニは練馬にあります。
去年の4月、ちょっと寒かったときにあったお話です。

私、そのコンビニの夜勤に入る前に、YouTubeで富士の青木ヶ原樹海の前にあるコンビニのお話を見たんですよ。青木ヶ原樹海というとね、自然も豊富で、とても良い場所なんです。しかし、皆さんご存じのように、自死なさる方が入って行く場所というイメージのほうが強いですよね。それで、青木ヶ原樹海に入る前に、皆さんそこのコンビニに寄って水とかを購入して、青木ヶ原樹海に入って行くそうなんですよ。うわー、これはつらいなあ、なんていうYouTubeを見た後に起こった話なんですが……。

その日の夜勤、4時か4時半ぐらいかな? 2人の男女がいらっしゃいました。30代前半、30~40歳くらいの人かな? 地味な格好して入ってきたんですよ。何だか顔色が冴えないというか、青くて暗いんですね。まあ、いろんな性格の方いますから、別にいいんですが……。

男性は
「缶コーヒーを1本ください。」
と言うので
「あ、どうぞ、どうぞ。」
女性は
「コロッケ1個ください。」
と言うので
「はい、どうぞ。」
2人に商品を渡すと、暗い感じで帰って行ったんです。
それで、帰り際に戻ってきて
「すいません。あの、新聞はまだ来ていませんか?」
と言うんですよ。
「ああ、新聞ですか? ちょっと早いですね。そうですね。あと15~20分くらい経ったら来ると思うんですが、何だったら近くのコンビニに行けばあるかもしれません。」
「ああ、そうですか。」
と言って、そのカップルは外に出て行ったんです。

私は他の仕事しながら、お店の中でいろいろやりながら、ちらっとビデオカメラを見たんですね。そしたら外に出たカップルが、ずっと真正面を見て立っているんですよ。
『ええ、何をしているんだろう? 別に会話をしているわけじゃないな? まあ、いいか……。』
と思って、また仕事に戻って、しばらくしてビデオカメラを見たら、まだ立っているんですよ。
『あれ? そうか、新聞を待っているのか! こんな寒いのに、分かった、分かった。』
と思って……。
掃除の前だったんですが、そのコンビニには客席があるんで
「どうぞ、どうぞ。」
と呼んで
「寒いんで、客席の掃除もちょっと遅れてもいいですから、座って待っていてください。」
と言って席を貸してあげたんですね。
その後5~10分経ってからかな? 新聞屋さんが来るんですが、新聞が来るまでの間、一言もしゃべらないんですよ。普通に何かしゃべるのかなと思ったら、2人でずっと黙って席に座っている……。それで、こっちも何か気持ち悪いなあと思っていて……。

それで
「どうぞ、新聞来ました!」
と言ったら、すぐに駆け寄って来ました。それで新聞を渡したんですよ。
「どうぞ。」
その新聞を客席に持っていって読み始めたわけですよ。そしたら、急に声を張り上げて
「あったーーーー!」
と言ったんです。
「ええ? 大丈夫ですかーーーー?」
と言って駆け寄りました。
「何があったんですか?」
「いや、あのですね。この毎日新聞をずっと待っていたんですよ。」
「はいはい、はいはい。何ですか? 毎日新聞……。」
「別にここのお店じゃなくても良かったんです。でもやっぱりね、私の住んでいる場所の近くにもコンビニがあるんですが、やっぱりここがいいと思って、この店を選んだんです。」
「どういうことですか?」
「いや、この店ね、昔から使っているんですが、雰囲気が良くて。やっぱり、どうせだったら、そういうところで新聞を買いたいと思いまして。」
「ええ。何で新聞を?」
「言い忘れていました。申し訳ございません。私ね、小説家なんですよ。」
「はあ、そうなんですか?」
「それで、私が書いた小説を評価してくれる大先生が『新聞に載せてあげるよ』と。ただ『新聞に載せる人数が決まっていて、もしかしたら載らないかもしれない。そこはもう運命だよ』みたいなことを言われていて……。それで、どうせ載るか載らないか分からないんだったらば、空気のいいお店で買おうってことで、このお店に来たんです。そしたらですね、店員さん、ありましたよ! 載っていましたよ! 私の作品。紹介されています!」
と言って、さっきまで暗くて真っ青だった2人が、もう手を合わせて飛び跳ねているわけですよ。
「ああ、おめでとうございます!」
と私も言ってね。
何だかこちらも、ちょっと感動してきまして……。私も、何だかんだ言っても吉本興業に引っかかっている芸人ですからね。それはもう盛り上げますよ。異常に盛り上げました。
「おめでとうございます!!!ちょっと僕もうれしいな! そうだ、どうでしょう? このファミチキ差し上げます。」
と、ファミチキをプレゼントしたんです。
それで調子に乗ってね、せっかく商売ですから
「どうですか? ビールなんか買っていったらどうですか?」
と言ったら、それは
「大丈夫です。」
と断られましたがね、ものすごい喜んでくださって、帰って行ったんですね。

いや、この小説家の方。何ていうのかな? そういうこともあるんだな、と……。
まあ、めったにないことですし、初めての経験ですからね。

その出来事から1か月後……。
コンビニの本部から感謝状が届いたんですよ。『何だ、これは?』と……。
店長さんから
「佐藤さん、これ届きました。良かったらもらってください。」
と言われて、頂いたんですよ。今日の収録に持ってきたんですけど、何かアルバムみたいな、なかなか豪勢な感じでできている感謝状なんです。そこにね、その方からのメッセージが書いてあるんですね。ちょっと読んでみます。

10年以上こちらのお店も利用しておりますが歴代のスタッフさんも含めて感じの良い方が多い印象を持っております。
4月8日の早朝、新聞を買うために行ったのですが、新聞が来るまで外で待っていたところ、スタッフの佐藤さんがわざわざ外まで出てきてくださり、(イートインスペースの利用時間ではないにもかかわらず)「外は寒いので宜しければ、どうぞこちらに」と机の上に上がっていた椅子をわざわざ下ろし、椅子をすすめてくださいました。
その日の新聞が自分の人生にとって大切な記事が掲載されるゆえ、妻と揃って緊張の極みにいたのですが、そんな中、そうした気の利く温かい対応をしてくださり、妻と2人で感動してしまいました。
おまけに目的の記事を見つけ(自分の本のことが書いてあるのですが)喜んでいたところ、そのスタッフさんも喜びを笑顔で共有してくださり、尚のこと、感動いたしました。
あのスタッフさんはどんな方なのでしょうか。なかなかあんな風に振る舞える人はいない気がします。
人として貴重な方だと思わされました。感謝しかありません。

という内容で本部にメッセージが送られまして、本部がちゃんと感謝状を作って、お客さまからの声というのを送ってくださったんですよ。こちらもね
「ああ、そうですか。普通に振る舞ったのですが……。ありがとうございます。」
クオカードか何か付いていないかな? なんて思いましたが、そういうのは付いてないんだ? 本当の感謝状なんだと思って、感謝状をもらいました。
私ね、このとき『実は、僕は芸人なんですよ』とは言わなかったです。だって、つまんないじゃないですか。いや、この人喜んでくださいましたね。ただ、ファミチキおごってもらったということは書いていませんでしたね。いや、でもよかったです。

それでこの後、僕も毎日新聞を買って読んだんですよ。そしたらね、これ言っちゃってもいいと思うんですがね、その作家さんは真木由紹(まきよしつぐ)さんという方です。『台湾および落語の!』という小説を書いたのかな?
それで、新聞に載ると何がいいのかって、そのこと言っていましたけども、新聞に載ると全国の図書館で扱ってくれるそうなんですよ。そうなると、多分、図書館の数も半端じゃございませんね。要は印税が入ってくるわけで、半端じゃない感じですよね。なるほど、そりゃ喜ぶわと。へえーって分かった感じでございますよ。いや、こんなお話でございます。

これは何でしょうね? 小説家のお話かな?

金銀財宝☆只野編隊のごきげんなラジオ
2024.06.15 O.A.より